宥照くず湯

宥照くず湯

大学生になり、菫は松実宥と二人で暮らし始めた。
あの菫の付き合っている相手に好奇心が少なからず湧くのは自然なことだ。普段クールに振舞っているつもりでも、宥からのメールが届くと一人でニマニマと顔を緩ませ、私には見せない顔をする。 私はそんな菫の姿を横目で見ながら、気がつかない振りをしてお菓子を貪っていた。あえて指摘して、菫の面白顔が見られなくなるのもつまらない、楽しみは少しでも多い方がいいし、お菓子もより美味しく食が進むというもの。
冷やかしも兼ねて私は二人の同棲する住まいによく入り浸るようになった。そして、私が宥そのものが目当てになるまで時間はかからなかった。
宥は寒がりで家に引きこもり気味だけれど、よく出来た女の子で、動き出しさえすれば家事などテキパキと手際良くこなすが、水仕事などすると「寒いよぉ~寒いのぉ…」とすぐコタツの中に引きこもった。
私が訪れると今日も朝洗濯を済ました後からずっとコタツに引きこもっていたという。
「菫は? いないの?」
私は尋ねる。
「菫ちゃん、家庭教師のアルバイトなのぉ…」
宥は身体をもぞもぞとコタツからを出し上半身を起こすとにっこり答えた。二人で暮らし始めてから猫の刺繍入りの半纏が最近ホットなんだそうだ。「宥は私の髪型に似てるから気に入ってるのかもしれないな」とか菫が話していたのを覚えてる。
「そういえば、菫ちゃんが教えてるお宅のお子さんね、暑がりなんだって、もうクーラーが使っているって言ってたの…菫ちゃんすごいよね、クーラーの効いた部屋でもすごい薄着で教えてるみたいなの…身体冷やしたりしないかなぁ…?」
初夏のコタツに比べれば、クーラーを使うのはまだまだ自然な気もするのだけど。
「あっ、照ちゃんもコタツ入る? …」
「宥ほど寒がりじゃないから、ごめん」
「…ふ、普通はそうだよね」
「冬になったら一緒に入る」
「ありがとう、照ちゃん…」
なんでも菫は宥に付き合ってコタツにも一緒に入ってるのだとか、惚れると体質まで変化するのか、ちょっと興味深い。
「そういえばね、照ちゃん、今日は玄ちゃんから吉野のくず湯が届いたの、一緒に飲む?」
宥は近くに置いてあった箱を取り出すと机の上に広げた。
「色々あるんだね」
「うん、生姜におしるこ、緑茶に、さくら。生姜は身体があったか〜くなるから私、大好きなんだよ」
「宥はジンジャーケーキとかも生姜入り紅茶も好きそう」
「ジンジャーケーキ食べた事ないかも…照ちゃん、それ美味しい?」
「私が食べたのはすごく、甘かった…」
それは古い海外のレシビだったらしく、出来上がったのを妹の咲と食べて、顔をしかめながら食べ切ったを記憶がある。
「照ちゃんはどれ飲みたい?」
「…おしるこで」
「じゃあ、作るね、お湯沸かしてくる」
宥はのそのそコタツから出て台所へ向かう。私は読みかけの本を片手に宥について行く。
「照ちゃんはゆっくりしてていいよ~」
「宥、一人で台所いるの寒いと思って」
「…照ちゃんを抱きしめててもいいの?」
「うん」
宥はやかんをガス台に乗せ火をかけると、私の身体に手を回して抱きしめた。
「ありがと~照ちゃーん」
分厚い半纏を着てぬくぬくほっこりした宥が私を身体を抱きしめながら、
「私は嬉しいけど、照ちゃん、暑くないの…?」ちょっと心配そうに尋ねた。
「まだこの季節なら大丈夫、宥にこうされるの好き」
私は宥に顔を見せないように寄りかかる。手に持った本が汗で滲む。
どうせ持ってきたって読めやしないと思ってはいたけれど。書店で巻いてもらった紙のブックカバーがふやふやになりそうだ。
「菫ちゃんには秘密にしてね~」
「菫は嫉妬深いところがある」
宥は人に抱きつくのが好きなのだけど、みんなこの季節は暑がってすぐに嫌がるようになるのだそう。
私も暑いは暑いのだけれど、宥に何度か抱きしめられて、次第に宥の持つ母性的な温もりに心地良くなってきて、菫の居ない日にはこうしてこっそりひっついていた。
「…あっ」
不意に離れる宥の身体。
じんわり汗ばんだ服が空気に触れる。
「お湯が湧いたみたいなの〜、照ちゃんは、コタツで待ってて」
宥は器にお湯を張り温めてから、くず湯の袋をハサミで開ける。私がまだ側に立っているのを見ると、ふふっと笑顔を向けた。
ちょっと待っててね、そう言いたげに思えたので、私はコタツの中には入らずに座り本を開く。
案の定書店の紙カバーがふにゃふにゃになってる。
宥が持ってきてくれるまで数ページぐらいは読み進められるだろうか?


☆☆☆

「あつ…」
「照ちゃん、猫舌なの…?」
「そんなことは無い、と思う。そもそもくず湯自体の温度が熱いんだと思う、宥は平気?」
「うん、ふーふーって冷ましながら食べるとちょうど良くなっていいよ~」
「私はちょっと置いて冷まそうかな」
さすがに少し熱過ぎるような、
「あっ、でも、くず湯はあったかくないと、すぐにとろとろじゃなくなっちゃうから~」
「そうなんだ」
なんとなく甘えてみたくなった
「じゃあ、宥に冷まして食べさせて欲しい」
「いいよ~」
宥は私の隣に座り直すと、匙でひと掬いすると口元触れるぐらい近づけ、ふー、ふー、っと、息を吹きかけ冷ます。
「はい、照ちゃん、あーん」
「…あーん、はむっ」
程良く冷まされたくず湯が口の中に広がる。甘くて温かい。
「美味しい?」
「うん」
菫が見ていたらきっと怒るだろうなぁ…。
「私も食べよぅ〜、はむっ…あったか〜ぃ」
「あっ…」
「どうしたの、照ちゃん」
同じ匙。
菫が見ていたら間違いなく確実に怒るだろうなぁ…。
「もっと食べたい」
「うん、一緒に食べようね、ふーふー、あーん」
「あーんっ」
「照ちゃん、あったかい?」
「うん、あったかい…」
器の中のくず湯が空になるで二人で甘くて温かなやりとりを繰り返した。

その後もっと二人で熱くなることをすることになってしまうんだけれど、それはまた別の話。


☆☆☆

「…照ちゃん?」
「…宥のくず湯美味しかった」
「そう、良かった」
「あんまり、照ちゃんと仲良くしてると菫ちゃんにまたヤキモチ焼かれちゃうかなぁ…?」
「…宥(ギュッ」
「…まだ、帰ってこないから平気かな、照ちゃんの身体あったかくて気持ちいいの…」
「…菫に、悪いけど、もう、我慢できない」
「…照ちゃん…!?」

☆☆☆

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